石原壮一郎「大人の言い訳講座#6」
大人の言い訳は、相手への誠意でありやさしさであり愛です。何かとややこしくてままならない大人の日々ですが、適切な言い訳を繰り出して、自分を守りつつ周囲のストレスをできるだけ少なくしてしまいましょう。
講師
石原 壮一郎さん
1963年三重県生まれ。大人の美しさと可能性を追求するコラムニスト。1993年に『大人養成講座』でデビュー以来、日本の大人シーンを牽引している。近著に『本当に必要とされる最強マナー』『9割の会社はバカ』など。
商談相手の名前を呼び間違えた
呼び間違えたことに付加価値をつけることで災い転じて福となしたい
何度も会ったことがある取引き先の担当者に、新しいプランを提案。「なるほど、いいですね」と先方が乗り気になってきたまさにその時、悪魔がとんでもないイタズラをしでかしました……。
「山田さんならわかってくれると思ってました!」と弾んだ声で言った瞬間、相手が顔を曇らせて、「いや、私は吉田です。まだ、名前を覚えていただいてなかったんですね……」
とポツリ。もちろん吉田さんであることは重々わかっていましたが、なぜか口から出たのは「山田」という名前。このままでは、まとまりかけた商談もオジャンです。ここは、大人の言い訳の神通力にすがるしかありません。
「申し訳ありません!お名前を間違えるなんて、いちばんやってはいけないことですよね。たいへん失礼いたしました!」
そんなふうに平身低頭、せいいっぱい謝るだけでは、相手の心に広がる不愉快な感情を吹き飛ばすことはできないでしょう。
呼び間違えてしまったのは、巻き戻せない事実。かくなる上は、間違えたことに付加価値をつけてしまいましょう。
「すいません! 私の高校時代の恩師に山田先生という方がいらして、すごくお世話になって尊敬しているんですが、前々から吉田さんは山田先生に雰囲気が似てらっしゃると思っていたせいか、つい間違えてしまいました!」
こう言い切れば、相手はけっして悪い気はしないはず。災い転じて、むしろ相手との距離を縮めてしまうことができます。
「山田さんというイケメンの先輩がいて、私にとってはイケメンの代名詞が山田なんです!」
そう言い張るのも勇気あるアプローチ。かなり無理がありますが、どうにかフォローしたいという必死さは伝わるでしょう。
ただし、とにかく持ち上げればいいというものでもありません。相手が異性の場合に、「初恋の相手が山田という名前で、その人に雰囲気が似ていて……」と言ってしまうのは、間違いなく逆効果。「うわ、なにこいつ」と気持ち悪がられて、商談は間違いなく決裂してしまいます。
言い訳の極意
絶体絶命のピンチは、逃げずに立ち向かうことで、むしろチャンスとなる——。 言い訳は、それを可能にする魔法の杖である。
[MEN’S EX 2018年10月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)