近頃、エグゼクティブの間でますます話題のアート。知識を広げ、ビジネス会話を広げるためには、アートの「用語」にも精通しておきたい。
“ヴァーチャルリアリティ”
作家が頭の中で見ているヴァーチャルな世界を体感
VRと略されることの多い”ヴァーチャルリアリティ”という言葉は、3Dゲームで耳にするかもしれない。「ヴァーチャルガールフレンド」がネットやゲームの中の恋人を指すように、日本語でヴァーチャルは「実体のない」という意味でよく使われる。だが英語には「(実物ではないが)本質的に存在する」という意味合いもあり、アートでは、三次元CGや実写の合成で作られた人工的なものでありながら、現実的な要素を抽出した芸術的な空間を意味する。
東京ミッドタウンなどにある、科学や建築に基づいた野外彫刻で知られる現代美術家フロリアン・クラールの大規模な個展は、「ヴァーチャルリアリティ」という言葉を想起させる。彼の頭の中にあるヴァーチャルなイメージが、オブジェや映像などのアートとなって再現され、人々は彼が見ている世界を五感で体感できるのだ。
また会場となる富山県の発電所美術館は、歴史ある水力発電所をリノベーションしたユニークな場所。作家はこの空間を製作の起点として、最後は泊まり込みで作品を完成させた。その映像を含むインスタレーションは、空間を音響や照明とリンクさせ、現実世界を忘れて鑑賞できるよう入念に効果を計算したという。そこからは「森の物語」という、未知の物語に没入したような高揚感も得られるはずだ。北アルプスの景色と共に、夏の疲れを癒す旅として、現代アートを楽しんでみてはどうだろう。
アーティストはこの人!
フロリアン・クラール(Florian Claar)
フロリアン・クラール(1968-)は音楽や映画、科学、建築に基づいた作品を制作するドイツ出身の現代美術作家。シュトゥットガルト国立芸術大学で学び、現在ドイツと日本を拠点に、アジアでも屋外彫刻といったアートプロジェクトも手掛ける。「日本は自分のホーム」と語るように日本での活動歴は長く、今回の展示は現実と虚構が織りなす映像、近未来映画のセットを思わせるオブジェ、高さ8mの木材を使った立体作品などで構成された彼の集大成的なもの。
「理解しようとしないでほしい」がアーティストのメッセージ。体験しながら自分の「好き」を探すこと
「好きに理由はない」と断言するフロリアン。映像や立体となって繰り返し現れる謎の男のアイコンは、彼の好きなSF映画『未来惑星ザルドス』(1974)に登場する神像。感性をゼロにリセットし、会場でピンとくるシーンに出会って。
アートの中にある虚構と現実、古代と現代。相反するものを同時に体験して、常識を捨てよ
「アメリカで見たジェットエンジン、ドバイで見た魚、東京で見つけた橋脚、200年前のオペラがひとつのシーンに融合している」と作家自身が言うように、どこの国とも時代とも断定できない映像作品。鑑賞しながら想像力を鍛えて。
DATA
『Waldmarchen(森の物語)フロリアン クラール』 会期:開催中〜10月8日(月・祝日) 会場:入善町 下山芸術の森 発電所美術館(富山県下新川郡入善町下山364-1) 開館時間:開館時間:9時〜17時(入館は16時30分まで) 休館日:毎週月曜日(9/17、9/24、10/8は除く)、9/18(火)、9/25(火) 入館料:一般600円ほか お問い合わせ:発電所美術館 TEL:0765-78-0621
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[MEN’SEX2018年10月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)