大人の言い訳は、相手への誠意でありやさしさであり愛です。何かとややこしくてままならない大人の日々ですが、適切な言い訳を繰り出して、自分を守りつつ周囲のストレスをできるだけ少なくしてしまいましょう。
講師
石原 壮一郎さん
1963年三重県生まれ。大人の美しさと可能性を追求するコラムニスト。1993年に『大人養成講座』でデビュー以来、日本の大人シーンを牽引している。最新刊は、悩みがスッキリなくなる『大人の人間関係』(日本文芸社)。
後輩との待ち合わせで遅刻した
「ミスしたあとのお手本」を見せつけて、ミスを紛らわそう
後輩といっしょに得意先を訪ねることに。その前に別件があったので、「約束の時間の15分前に、先方の近くの駅で集合しよう」ということにしました。ところが、いろいろ不測の事態があって、待ち合わせに10分遅刻…。
電車から「10分ぐらい遅れそうです。申し訳ない」とメールしてはあるものの、それで済む問題ではありません。急がないと先方との約束に間に合わなくなりそうで、後輩はかなり焦っています。
自分の落ち度をなるべく減らしたいのは山々ですが、「電車が遅れちゃって」という言い訳は避けたいところ。いかにもウソ臭いし、たとえ本当でも、堂々と遅れた理由にしている点で、仕事ができなさそうな印象を与えそうです。まして「うっかり反対方向の電車に乗っちゃって」と言ったら、心の底から軽蔑されるでしょう。
ここは、半端に言い訳をしないことが最善の言い訳。後輩と顔を合わせた瞬間に、両手をしっかり体の横に付け、上半身を45度以上曲げる「最敬礼」をしながら、「遅れて申し訳ない」ときっちり謝ります。そして次の瞬間、「急ごう」と機敏に移動を開始。先方の会社に着くまでに、今日の段取りや目的を打ち合わせます。
約束の時間に遅れてしまった場合は、先方に向かって、やはり「最敬礼」をしながら、「遅れて申し訳ございません。彼ではなく、私のせいです」と、自分の非を明確に前面に押し出しましょう。もしかしたら相手は、こっちが後輩の罪をかばっていると誤解するかもしれませんが、それはそれで儲けものです。
仕上げは、訪問を終えたあとの帰りの電車でのフォロー。
「今日は、駅で待たされて焦ったよな。いやあ、悪かった」と、あらためてねぎらうことで細かい気遣いを示します。
言い訳の目的は、自分の失点を最小限に抑えること。「ミスしたあとのお手本」と言える振る舞いに徹することで、後輩は「いい勉強になった」と感じて、こっちのミスを忘れてくれるはず。ただし、自分から「いい勉強になっただろ」と言ってしまったら、すべて台無しです。
言い訳の極意
説明すればするほど泥沼にはまりそうな場合も、必ず別の手段がある——。
言い訳は、時にそんな大切な智恵を授けてくれる。
[MEN’S EX 2018年6月号の記事を再構成]
イラスト/千野エー