【今月のインタビュー】役者・歌手 阿部サダヲさん

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「50歳越えたら、ジャケットを着る男になろうと思っているんですけどね」。冗談とも本気ともつかぬ口調で語る阿部サダヲさん、48歳。15年前、中村勘三郎(当時勘九郎)さんが松尾スズキ作・演出の舞台で務めた役を、同じ年齢で務める。その胸中やいかに。

阿部 サダヲ

諦めそうな気持ちを、舞台はもうちょっと頑張らせてくれる

全体を見渡す視点で主演を務める難しさと楽しさ

なかなか興味深い洋服遍歴をお持ちだ。若い頃は古着のアメカジ系、「新宿の伊勢丹を覚えてから」着る服が変化し始め、コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン、アンダーカバーなどの一方、「スタンダードなヤツも好き」。テーラーの楽しさにも目覚めた。

「2009年の『なくもんか』という映画で、ハムカツ職人の役をやったとき、ハムカツをイメージしたカーキ色のスーツをお願いしたんです。シャツはハムのピンク、ネクタイはソース色。それがすごくカッコよくて。仕立ててもらった渋谷のテーラーケイドの山本祐平さんを訪ねて、スーツをお願いしています。憧れますね、肩からメジャーを掛けている人。ネクタイの巻き方から、いろんな着こなしのルールや情報を教えてもらいますが、レベルが高すぎて追いついていけないんですけどね(笑)」

そんな、洋服好きな面をお持ちの阿部さんだが、今回の舞台は時代劇。15年前、大人計画を主宰する松尾スズキさんが、当時勘九郎を名乗っていた中村勘三郎さんに当てて書いたものだ。時は幕末、武士の加瀬実之介は芝居好きが高じて、家も身分も捨て狂言作者を目指し、鶴屋南北や河竹黙阿弥に弟子入り志願。しかしコトは容易に運ぶわけがなく、次々と事件や複雑な人間模様が展開……。

「当時、松尾さんは、初顔合わせの勘三郎さんから、とにかくいろんなものを引っ張り出したかった感じがします。だから勘三郎さんも大変だっただろうなって、今やってて思いますね」

時に勘三郎さんは48歳。奇しくも現在の阿部さんと同い年。

「まさか自分が勘三郎さんの役を演じるとは思っていなかったですね。勘三郎さんは、あの頃ジャケット着てらしたかな(笑)。歌舞伎の方って、当時の僕には遠い存在で、同じ時間を過ごしていたはずなんですが、全部幻想みたいで、あんまり覚えていないんです」

初演時、阿部さんは実之介に、ある取引を迫るマタギ兄弟の弟、灰次役で出演。今回、主演で臨む意気込みは?

15年前は『松尾さん、やりたいことやってるな』みたいな感じでしたが、本の読み方が変わりました。複雑な構造でテーマが広いし、不条理と和がミックスしたり、芝居と現実の狭間を行ったり来たりするし、主人公も複雑な精神状態だし、すごく難しい役。当時わかっていなかった、面白さや深さを、どう伝えていけるかですね」

この15年の歳月とは、阿部さんにとってどんなものだったのか。

「役者として一番意識が変わった時期かもしれないですね。ちょっとずつメインのほうの役を与えてもらう機会が増えてきたことで、役の幅が広がってきたことで、登場人物全員の背景も見ていくようになってきました。そうすると本の読み方が変わってくる。1回中心の役をやると、脇に行っても遊び方が変わってきて、すっごく楽しいですよ」

大人計画で育ってきただけに、舞台に対する思い入れは深い。

「舞台は、一番よそ行きじゃない形でやれる。でも、みんな知ってるだけに厳しい目をされてる気がするし、今まで以上に出さなきゃ、みたいなところもあります。『ボク、今のところこれぐらいかな』って結構諦めちゃったりするんですが、『もうちょっと頑張ろう』と思わせてくれるのが舞台かもしれませんね」


プロフィール
阿部 サダヲ 1970年千葉県出身。サラリーマンなどを経験後、1992年の舞台『冬の皮』より、松尾スズキ氏が主宰する劇団、大人計画に参加。舞台、テレビ、映画と幅広いフィールドで、コミカルからシリアスまでその演技力が高く評価され、2007年の初主演映画『舞妓Haaaan!!』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2019年のNHK大河ドラマでは、故・中村勘三郎さんの長男である中村勘九郎さんとリレー式のダブル主演が決まっており、「やっぱり不思議なご縁を感じます」。
※掲載写真の洋服はすべてスタイリスト私物。

ニンゲン御破算
c2018 尾嶝 太

ニンゲン御破算
15年前の中村勘三郎さん主演舞台『ニンゲン御破産』をタイトルを一文字変え『ニンゲン御破算』として再演

東京公演:会場 Bunkamura、公演期間6/7 〜 7/1
お問い合わせ:Bunkamuraチケットセンター Tel.03-3477-9999
大阪公演:会場 森ノ宮ピロティホール、公演期間7/5〜15
お問い合わせ:キョードーインフォメーション Tel.0570-200-888

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[MEN’S EX 2018年7月号の記事を再構成]
撮影/筒井義昭 文/まつあみ靖 スタイリング/チヨ(コラソン) ヘアメイク/中山知美

2024

VOL.342

Autumn

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