ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」の秋冬バージョンをご紹介。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第36弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.36 / ALPHA MA-1
’90年代前半に購入しました。私が初めてMA-1を知ったのが大学生だった19歳の頃。当時アメカジブームが起き、MA-1はスタジャンと並びアメカジの代表的なアウターとして人気がありました。
MA-1にスエットシャツやスエットパーカを着てリーバイスの501や505にスニーカーという、直球なアメカジスタイルが大学生だけでなく大人たちの間で大流行しました。
私の周りでもファッションに興味がある多くの人たちがMA-1を着ていましたが、童顔だった私はラギッドなフライトジャケットが似合わず、以前この連載でも紹介したゴールデンベアのスタジャンを選び、第一次MA-1ブーム?に乗ることはありませんでした。
次にMA-1のブームが起きたのは、私がBEAMSに入社して2年目の1986年。きっかけはその年に公開された映画TOP GUN。映画の中で主演のトム・クルーズが着ていたものはMA-1ではなかったのですが、フライトジャケット自体が大ブームとなり、なぜか黒のMA-1が大流行しました。
当時渋谷店のカジュアルフロアのスタッフだった私は、大量のバックオーダーを抱えていくらオーダーしても店頭に一点も並ぶことなく予約で完売という、空前のMA-1ブームを経験しました。
今になって思えば、それがその後’88年くらいから’90年代前半まで続く渋カジブームの先駆けだったのかなと思います。
そして、その渋カジブームが終わりを迎えた頃、私が初めてMA-1を購入します。それが今回紹介するALPHAのMA-1でした。
購入したきっかけは単純に休日着として必要だったから。当時娘がまだ幼少で、休日になると公園で一緒に遊んでいたので、子どもと一緒にアクティブに動け、汚れても家で洗濯ができる暖かいアウターを探していたところ、BEAMSの原宿店でこのMA-1を見つけ購入しました。
休日着と言っても洋服屋としては何でもいいわけではないので、当時それほど一般的ではなかったシルバーのMA-1は、フライトジャケットの持つラギッド感を感じさせかったのが購入するきっかけとなったポイントでした。
今のBEAMSのスタッフのSNSを見ると、休日に子どもと公園で遊ぶ時にコートを着ていたり、革靴を履いていたり、ハットをかぶったりと、休日も隙のない?スタッフもよく見かけますが、そんなオシャレさんとは対照的な動きやすさを重視したただのアメカジでした(笑)。
二度の大流行にも乗らず、そんな理由で洋服屋としては遅れて購入したMA-1でしたが、休日に本当によく着ていました。とにかく娘と公園を駆け回って遊んでいた頃に着ていた印象が強いので、このMA-1はある意味子育ての思い出がつまったアイテムです。
これから再び着ることがあるかどうかわかりませんが、年老いてから着ればもう少しサマになるかなと思っています。
もしくは昭和風のコスプレになるか…それまでは大切に持っていたいと思います。