
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する新連載「中村アーカイブ」がスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第16弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.16 /BEAMS F 英国製 ナイロンバルカラー

’90年代前半頃に購入したコートです。当時パリのあるセレクトショップで、そのショップのオリジナルネームが付けられた英国製のナイロン素材のバルカラーコートを見つけました。
そのセレクトショップでは英国製のナイロン素材のモッズパーカも展開していて、どちらかと言えば日本人にはそっちの方が人気だったのですが、私にとっては普通のナイロン素材で作られた、まるで雨合羽のようなバルカラーの方が魅力的に感じました。
その後、そのセレクトショップにリサーチに行くたびに、素材や作りをじっくりチェックするのですが、どう考えても特別なウンチクのあるようなものには見えず、同じようなものが英国の工場で作れるのではないかと考え、当時滋賀県の大津市にあった英国製品に精通するインポーターの社長さんに、英国のファクトリーでナイロンのバルカラーが作れないかと相談したところ、拍子抜けするほどあっさりと「素材もファクトリーもあてがあるので作れます」という返答。
当時駆け出しのバイヤーでしたが、そのままコピーするような節操のないことはできないので、一からオリジナルのパターンを起こし、ディティールも英国のヴィンテージのコートのディティールを取り入れて作ったのがこのコートです。
もともとこのコートのイメージがフレンチアイビーだったので、すこし大きめのコートをゆったりと着るという、当時のパリジャン的な着こなしのイメージで作ったのですが、2万円台で販売していたこともあり、ビジネスマンの方たちにもとても好評で、よく売れたのを覚えています。
ショップスタッフからは、「ビジネスに着るには大きすぎるので小さいサイズを」という声もあったのですが、「これはビジネス用に作ったコートではないので、ゆったり着ることをおススメしてください」と押し切ったことを今でも覚えています。
昨今フレンチテイストの流れがリバイバルしていますが、このコートを見るたびに’90年代にパリのショップをじっくりリサーチし、色々影響を受けてバイイングやモノづくりをしていたことを思い出します。
実は、今またこんなコートが新鮮に感じ、どこかでいいものが作れないかと考えています。もし実現した際は、皆さんに買っていただけると嬉しいですね(笑)。