大人の言い訳は、相手への誠意でありやさしさであり愛です。何かとややこしくてままならない大人の日々ですが、適切な言い訳を繰り出して、自分を守りつつ周囲のストレスをできるだけ少なくしてしまいましょう。
講師
石原 壮一郎さん
1963年三重県生まれ。大人の美しさと可能性を追求するコラムニスト。1993年に『大人養成講座』でデビュー以来、日本の大人シーンを牽引している。最新刊は、大人のたしなみ『本当に必要とされる最強マナー』(日本文芸社)。
妻が「太ったね」と責めてくる
その場しのぎのウソや空手形で逃げるより、接近戦に持ち込みたい
結婚して10数年。たしかに、当初に比べたら体重は10キロ以上増え、お腹もそこそこ出てしまいました。妻がことあるごとに、
「あーあ、なんでこんなメタボなおじさんになっちゃったかな」
と嘆きます。加齢で華麗に容姿が変化したのはお互い様ですけど、うっかり「そう言う君だって」と言い返してしまったら、間違いなく修羅場になります。
嘆くだけではなく、「どうするつもり!?」と具体的な対策を求められたり、「このままでいいと思ってるの!?」と詰め寄られたりすることも。そうなると、何らかの言い訳が必要になります。
うっかり「今日からダイエットするよ」と宣言したら、自分の首を絞めることになるし、「気を付けてるんだけど、ヤセないんだよ」と返したら、さらに大量の矢が飛んでくるでしょう。実際、そう簡単にヤセたら苦労しません。
ここは、メタボに関して言い訳をするのは、潔く諦めましょう。その場しのぎのウソか、現実味のない空手形になるだけです。
妻がメタボを責めるのは、たぶんこっちの健康を心配しているから。うっぷん晴らしや八つ当たりの要素が9割というケースもありそうですが、だとしても、残りの1割の要素に着目します。
自分のお腹をつまみながら「キミの言うとおりだね」と納得し、感極まった口調で、
「心配してくれてありがとう。そんなふうにきちんと忠告してくれるのは君だけだよ」
そう言って、何なら手を握ったりハグしたりしてみましょう。
妻が夫のメタボを責める背景には、心配している気持ちを伝えたいとか、容姿が変わってしまった夫と自分自身に対するモヤモヤとか、夫婦関係への漠然とした不安とか不満とか、いろんな気持ちが混ざり合っています。
感謝の気持ちを大げさに言葉にすることで、妻に満足感や安心感を与えましょう。それが、どうにもならないことへの非難に対する最善の言い訳であり、夫婦関係の平和を保つ大人の力技に他なりません。「話そらさないでよ!」と怒られる可能性はありますが、追及の勢いはきっと弱まります。
言い訳の極意
相手はなぜ、どうにもならないことを非難してくるのか。その気持ちを慮る——。
言い訳は、時に人生のほろ苦さを感じさせてくれる。
[MEN’S EX 2018年8月号の記事を再構成]
撮影/小澤達也 スタイリング/宮崎 司 イラスト/千野エー