1958年に創業し、日本のビジネススーツを牽引してきたAOKIが、イタリアの名門生地メーカー、REDA社と大規模なコラボレーションをスタートした。AOKI銀座店のリニューアルで、高品質なスーツのためのロイヤルコーナーが新設されここでREDAとコラボレーションしたスーツが展開されている。これを記念して、REDA社のエルコレ・ボット・ポアラ社長が、AOKI銀座本店に来訪するという。この知らせを受け、MEN’S EXの大野 陽編集長もAOKI銀座本店を訪問。じつは大野編集長は2011年にイタリアのREDA本社を訪れ、エルコレ社長に取材を行ったことがある。そんな縁もあって、このたび14年ぶりのスペシャル対談が実現。AOKIとREDAのコラボレーションをはじめ、エルコレ社長の哲学、機能性生地の開発秘話など、興味深いさまざまな話を聞くことができた。
「日本とイタリアには共通点があります」
大野 こんにちは。私のこと、覚えてますか?
エルコレ社長(以下、エルコレ) 思い出しましたよ! REDAの本社に来てくれた以来ですね。私も大野さんも、二人とも少し身体が大きくなったかな(笑)。
大野 そうですね(笑)。ではまずお聞きしたいことが、10月からリリースされたAOKIとのコラボレーションについて、一緒に取り組んでみて印象はいかがでしたか?
エルコレ AOKIさんからは『お客様にとっては、スーツを買うというだけでなく、スーツを選ぶことが楽しいという、経験になってほしい』という声を頂いていました。私もそれにはすごく共感して取り組めましたね。
大野 AOKI銀座本店のロイヤルコーナーには、REDAの生地見本も置かれていますからね。思えば私が2011年に取材した頃から、REDAは先進的な生地作りを行っている印象がありますが、現在もそうした文化は継続しているのでしょうか?
エルコレ そうですね。例えば2014年に、機能的で洗濯が可能な「REDA ACTIVE」を開発しましたし、時代に沿ったお客様のニーズに合う生地作りは常に心がけています。またニーズに応えるために、先を見越した生地作りも重要なので、世界を回りながら、どんなマーケットがあるか? どんなトレンドがあるか? 常にアップデートしておくように気を付けていますね。
大野 近年の気候変動やビジネス、ライフスタイルの変化にも、柔軟に対応していく必要がありますよね。そういえば私が2011年に取材した際に、エルコレさんのおっしゃった「ウールは自然がくれた最高の機能素材だ」という言葉がすごく印象的でした。冬は温かく、夏は涼しく、防臭といった機能性もある。だからこそ、その可能性に挑戦したいと。イタリアの奥深い生地文化に触れられた気がして、嬉しかったことを覚えています。たしかエルコレさんは若くして、30代で社長に就任しましたよね?
エルコレ そうですね。私の父の3代目では生産のオートメーション化など、ハイクオリティ&ハイパフォーマンスな生地を織るために、テクノロジーにポイントを置いていました。私の代になってからは気候変動や環境、原料生産の土地や人、動物に至るまで、すべての面をリスペクトすること。そのうえで、よりよい生地作りが持続できる点を重視しています。REDAは代々のよりよいアップデートで、歴史が育まれてきたメーカーですからね。
意外な理由から生まれた機能性ウール生地
大野 ところでREDAは2010年代から、ウールを使った機能性生地で業界をリードしてきましたが、当時からイタリア国内でそうしたニーズがあったのですか?
エルコレ じつは、そういうわけではないんですよ。REDAが機能性ウール生地を作り始めたのは、スーツ業界ではなく、他の分野に売り込もうと考えたからです。
大野 ええ? そうなんですか。
エルコレ 私は若い世代のデザイナー、営業でチームを作り、機能性ウール生地をアウトドアやスキーブランドなど、私達が今まで出会うことがなかった分野にセールスを行いました。その結果、REDAアクティブで作ったウールTシャツが、NASAの宇宙飛行士のTシャツに採用されるまで至りました。ウールの防臭性やREDAアクティブの機能が、数日間、同じ服を着続ける宇宙飛行士のニーズに合致していたのです。
大野 なるほど。
エルコレ 他にもスキーブーツのライニングに採用されたり、REDAの生地は従来とは思いもよらぬところで使われるようになりました。歴史あるメーカーであっても、こういう新たな出会いが重要なのです。立ち止まってはいけません。社員には「旅を続けよう」と話してきました。
大野 そうした機能性ウールの開発が結果、スーツの生地作りにも活かされたということなんですね。
エルコレ じつはそうなんですよ。
大野 ドレスシーンにREDAの「FLEXO」や「ACTIVE」が出てきたことで、ビジネスにも一気に機能生地が浸透した印象がありますね。間違いなく、日本のビジネスシーンは変わりました。ところで日本にはよく来られますか?
エルコレ よく来ていますよ。ちなみに、子供たちも日本を大好きなんですよ。
大野 それは嬉しいですね。以前からエルコレさんも日本のビジネススタイルを見てきたと思いますが、変化は感じますか?
エルコレ まず、私は日本とイタリアに共通点があると思います。それは男性も女性と同じくらいファッションを楽しんでいるということです。他の国は少し違うんです。女性は華やかにお洒落を楽しんでいるけど、男性は質実な服でいいということが多い。
大野 ああ、たしかに。
エルコレ 日本とイタリアは男性も着こなしがソフィスティケート、洗練されているんですよ。たしかに日本のビジネススタイルはカジュアルに寄ってきたかもしれませんが、色の合わせ方や着こなしが、洗練されている印象は変わらない。それは今後も変わらないのではないかと思います。
大野 それは私も同感です。あとイタリアと日本の共通点でいえば、職人やクラフトマンシップにリスペクトがあります。
エルコレ そうですよね。それに日本とイタリアのクラフトマンシップは、クオリティだけでなく美しさにも注力していると思います。例えばAOKIの店内のロゴ、MEN’S EXの誌面もそうですが、文字一つでも美しく見せようとしてるでしょう?
大野 おお、嬉しいことをおっしゃいますね。
エルコレ やはりそうですよね。REDAの生地もクオリティ、機能だけでなく、美しさもとことん追求してますから。
大野 やはり機能的な生地であっても、オーセンティックなルックスを追求しているのですか?
エルコレ もちろん、そこは変わらずオーセンティックで綺麗な生地を目指しています。
大野 JUNKO SHIMADA JS hommeの金のスーツに使われている生地も、とてもストレッチ糸が入っているとは思えない。これは本当にすごいと思いましたよ。
エルコレ ありがとうございます。14年経って、またREDAの生地について二人で話せるなんて、今日は本当にハッピーな1日です。
大野 こちらこそですね。今後も美しく、ウールのポテンシャルを追求した生地作りを楽しみにしています。ありがとうございました。
AOKIが展開するREDAのスーツ一例
(右)『JUNKO SHIMADA JS homme』は世界的デザイナー、島田順子さんがデザインを手がけるブランド。「金のスーツ」は最高峰にあたる一着で、生地はREDAのスーパー150’s原毛を用いた最高級の「マイヨール」がベース。これにストレッチ糸を混紡して、一段としなやかな着心地に。金のスーツ REDA 3B2B 紺チェックJUNKO SHIMADA JS hommeのスーツ10万9890円、シャツ7689円。LES MUESのタイ5489円。
(左)AOKIの中核をなす価格帯の『LES MUES』。「生まれ変わる」という意味を持ち、“新しい自分”への変化を後押しするブランドだ。今季からはジャケットやパンツを単品使いしやすい『着回しクロススーツ』が登場。よりストレッチが効いたコラボ生地を使い、カジュアルなアイテムと相性がいい織り感に仕上げている。着回しクロススーツ茶無地調LES MUESのスーツ7万290円、JUNKO SHIMADA JS hommeのニット1万989円、L&Wデザインのカットソー4389円。
REDAのスーツもオーダーできる、AOKI銀座本店のパーソナルオーダースーツコーナー
AOKI銀座本店は、2024年のリニューアルにて『THE TAILOR SHOP AOKI Ginza est. 1958』を刷新。REDA社をはじめ、銀座本店限定のハイエンドな生地、上質な小物も揃え、英国テーラーをイメージした店内で、オーダースーツ作りを案内している。フィッティング技術に優れたスタイリストが、体型や好みに合わせてサポートする体制も整っている。オーダースーツは注文から約1か月で受取が可能。
SHOP DATA
AOKI銀座本店
東京都中央区銀座1-11-1
TEL:03-3562-9888
営業時間/平日:10:00~20:30、土日・祝日:10:00~20:30
〈おまけ〉14年前のワンシーンが再び!?
こちらの誌面は2011年10月号、大野がイタリア・ビエラのREDA社を取材したときのもの。当時の日本の人気ショップでは、「REDAはクオリティと価格のバランスが素晴らしい」と、注目が高まっていた最中だった。AOKI銀座本店での対談後には、14年ぶりに「このスーツ、生地いいね!」と、懐かしの1カットを再現してみました。
お問い合わせ先
AOKIお客様相談窓口
https://www.aoki-style.com/special/support/
撮影=中島里小梨 文=桐田政隆





