『MEN’S EX特別編集 最高の靴選び』では、人気ブランドの「最高の3足」をピックアップ。履く時にテンションがあがる2026年“今”の最高の靴選びを真剣に考えてみたい。
静かに主張する美しき日本の靴
【特別インタビュー】
カルマンソロジーシューデザイナー
金子 真氏
祖父の影響で幼少期から洋服に親しみ、アパレル業界で革靴を学ぶ。傍ら独自の美学と技法を探求し、2017年に「CALMANTHOLOGY」を立ち上げる。
美しい佇まいの奥に緻密なロジックを潜ませる
M.E. 金子さんのこれまでの歩みと、靴作りの世界に魅せられたきっかけをお聞かせください。
金子 祖父がテーラーの職人をしていた環境もあり、幼少期から自然と洋服に触れて育ちました。洋服の仕立てや縫製は着たり触ったりする中で理解できるようになりましたが、どうしても構造を紐解けなかったのが「革靴」です。いくら眺めても履いてみても、なぜこの形になるのかサッパリ分かりませんでした。外からは見えない、緻密な計算が詰まった奥深さを感じたんです。でも、その「分からない」という謎めいた感覚こそが、「構造を知りたい」「自らの手でカタチにしてみたい」という抑えきれない強い衝動へ変わっていきました。実は自分の経歴はあまり表に出していませんが、作り手としての過去の文脈ではなく「その一足」としてまっすぐ向き合ってもらえたら嬉しいですね。
M.E. カルマンソロジーが追求する機能性や、デザインにおける独自性はどこにあるのでしょう。
金子 革靴には「変えてはいけない領域」が多く存在していると感じています。安易にハイブリッド化させ、履き心地のみを優先させる為の過剰なクッション材を詰め込んだりするアプローチは僕の設計思想にありません。ただ、現代の歩行環境において作り手が時代の変化から目を背けるわけにはいきません。クラシカルな外観を崩さず、内側に機能的なアップデートを忍ばせる答えが行き着いたヒール内部の精密な構造です。解剖学的な視点から人体の骨格を学び、「ヒールは足全体を支える決定的な軸」という確信を得ました。ただ踵の骨格は個人差が大きく、万人にとって完璧な形状を作るのは不可能です。だからこそ内部に〝適度な遊び〟を設け、履く人の足型へ自然と馴染む仕組みを考案しました。具現化のため、体重がかかった際に心地よい沈み込みが生まれるよう、中底と本底の間にあえて「1.5mmの隙間」を設けています。
さらに、その衝撃緩和を支えるのが、ヒール内の三層構造ラバーです。反発性の異なる特殊ラバーの階層が衝撃を吸収して踵を包み込み、美しさを損なうことなく高いホールド感と身体への優しさを両立させています。
思考を重ねた美しさが足元にロマンを宿す
M.E. 木型やディテールへのこだわりについてもお聞かせください。
金子 人間の踵の突起に合わせて、あえて外側にずらした踵の支点をベースに木型を設計しています。この処理により履き込んだ際の型崩れを最小限に抑えられるほか、床に平置きした時も足を通した時もすっきりとしたストレートな美しさが生まれます。そして、デザインにおいて最も神経を研ぎ澄ませているのが、線と空間の美学です。ただそこに置かれているだけで、周囲の空気感まで静かに研ぎ澄ましていくような佇まい。写真家ウジェーヌ・アジェが切り取った静寂なパリの風景写真のように、削ぎ落とされた空間の余白に宿る静謐な美しさこそが僕の理想です。フォーマルはもちろんデニムやジャージにも馴染む、既存のカテゴライズを超越した存在であり続けたいと思っています。
M.E. 生活スタイルが多様化する今とどう向き合っていますか?
金子 時代の変化を過剰に意識してブレるのは本末転倒ですが、背を向けていてはモノとしての前進はありません。時代や環境の移り変わりとは常に「背中合わせ」の距離感で向き合っていきたいですね。「今」を正しく見つめ自分にできる最善を尽くさなければその先の未来も作れません。世の中の空気感を敏感に肌で感じ取りながらものづくりに落とし込む姿勢は、これからも大切にしていきます。
M.E. 金子さんにとって、メンズファッションにおける「革靴」とはどんな存在でしょうか。
金子 ひと言で表すなら「ロマン」です。手入れを重ね、傷を刻み、ソールの張替えを経て長く付き合っていく。その歳月の中でふと気付かされる発見があったり、いつしか自分の歩みに一番寄り添ってくれるパートナーになっていたりする。そこに佇む靴から履いてきた人の生き方やストーリーが滲み出てくるような、そんな物語を感じられる靴でありたい。履き手と共に歴史を重ねていける一足を、これからも情熱を持って作り続けていきたいと思っています。
手軽さや効率がもてはやされる現代において、金子氏の靴づくりは愚直なまでに細部へのこだわりと情熱が注がれている。だが、その徹底したロジックと美学があるからこそ、カルマンソロジーの靴は私たちの足元を静かに、そして格調高く支えてくれるのだ。部屋の片隅に置かれた一足の革靴。そこに込められた物語に思いを馳せながら、また明日もこの靴を履いて街へ出たくなる。
カルマンソロジーを知るキーワード
■1.5mmの隙間(余白)
構造上の余裕(アソビ)が生む、履き手ごとの足圧を優しく包み込むフィット感。見た目の美しさと心地よい快適性を繋ぐ、目に見えぬ精密な仕掛けだ。
■ヒール内の三層構造ラバー
伝統的な革靴の美意識を保ちつつ、アスファルトを歩く現代人の足腰をしっかりサポート。見た目の美と快適性を両立させた、機能的なテクノロジーだ。
■外側にずらした踵
骨格の傾きまで計算し、美しいシルエットを生み出す。人体解剖学と木型設計が高次元で融合した、金子氏の執念が宿る「見せないこだわり」だ。
■線と空間の美学
線と線が作り出す空間の美しさから生じる余白の美学。あらゆるスタイリングへ自然と馴染み、高い汎用性と洗練された佇まいを担保する。
■写真家ウジェーヌ・アジェ
アジェが写した飾らないパリの姿のように、過剰な装飾を削ぎ落とし、静けさや余白の美学を通じてモノの本質と気品を靴へ与えている。
問い合わせ先
CALMANTHOLOGY
https://calmanthology.com/
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