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「一つの役をやると経験や知識が増える。それが新たな想像力や知的好奇心を生む」

鈴木亮平さん_全身
ジャケット8万円、シャツ1万6000円、パンツ2万6000円、靴4万2000円/以上ボス(ヒューゴ ボス ジャパン) 時計51万円/IWC(IWC)

――4月からの連続ドラマ『レンアイ漫画家』にご主演。漫画家という今までなかった役にどんな向き合い方を?

鈴木 刈部清一郎という引きこもりの天才漫画家役で、恋愛には奥手。漫画の題材のために、吉岡里帆さん演じる久遠あいこという女の子に、自分の代わりに恋愛して報告しろというミッションを課すんです。陰か陽かでいうと、今まであまりなかった陰なキャラクターですが、コメディなので明るく楽しく見て頂けると思います。僕も割とインドア派なので、彼の気持ちが理解できる。彼の仕事部屋のセットには、世界各地の置物や膨大な数の蔵書が並んでいて、あの部屋に住みたいと思ったぐらい(笑)。どんどんデジタルに移っていく時代ですが、好きなものについて書かれた本や雑誌に囲まれていたい欲求がすごくあるので。

――M.E.もそんな一冊でありたいですね。昨年9月には妄想旅行記『行った気になる世界遺産』を上梓されました。文だけでなくご自身による挿絵も多数収められています。それも漫画家の世界観に通じるものがあったのでは?

鈴木 5年間、雑誌に連載したものを推敲し、解説文を書き加え、挿絵も一部描き直しました。ちょうど書籍化に向けて動き出す時期に緊急事態宣言で春先の作品が全てストップしてしまった。時間ができたことで、紙の選定に至るまで、きちんと満足できる関わり方ができました。そうは言っても、一番好きな俳優という仕事を奪われたダメージは、想像以上でした。僕は演じることで、現実世界とのバランスを取っている人間なんだということを再認識させられましたね。

――その時期はどんな過ごし方を?

鈴木 ベランダの植物の手入れをしたり、プランターでハーブを育てたり。インプットの期間にしないと、と思っていたので、その時だからできる勉強もしました。いろんな業界の第一線の人たちが先生になって授業の動画を上げている『マスタークラス』というアプリがあるんですが、僕らの業界だとロン・ハワード監督やデヴィッド・リンチ監督が映画作りや演出を語ったり、サミュエル・L・ジャクソンやナタリー・ポートマンが、自分のお芝居について見せてくれたり。ものすごく勉強になりましたが、やっぱりお芝居がしたいという気持ちが勝ってしまい、植物に頼ったという感じでしたね。9月に半年ぶりに『孤狼の血 LEVEL 2』という映画の撮影に入った、その初日は涙が出そうなくらい嬉しかった。初心に戻るような感覚や感謝の気持ちが湧いてきて。普通に仕事ができていたのは、当たり前じゃなかったんだと痛感しました。

――ヤクザの親分役だとか?

鈴木 1色ではない、いろんな色の役を頂いて、常に新鮮な気持ちで毎回お芝居できることは幸運だと感じていますし、役者冥利に尽きます。いい人を演じるときは、この人の悪いところはどこだろう、悪い人なら、この人はどんないいところがあるんだろうと考えます。いい人だ、悪い人だと思って演じると、そう見えない。お客さんに気付かれてしまう。『西郷どん』の前は、この人をどう見せようかとすごく考えていましたが、自分がしっかりその人になりきれれば、お客さんもそれを見てくれます。変に説明せずに、その人としてその場にいることを意識するようになりました。尊敬する先輩方は、皆さんそうおっしゃっていたんですが、それがちょっとだけ肌で分かるようになった気はします。俳優の仕事のいいところは、一つの役をやると経験や知識がものすごく増えることです。同じ記事やニュースを読んでも、感じることや考えることが違ってきます。知識が増えれば想像力も増していくし、想像するものが増えれば、もっと知りたい気持ちが生まれてくる。そうすると世界の見え方や、人とのコミュニケーションも変わる気がします。年齢とともに、楽しみながらそれを積み重ねていきたいですね。

鈴木 亮平 Ryohei Suzuki
1983年兵庫県生まれ。2007年森田芳光監督作品『椿三十郎』で映画初出演。2014年NHK連続テレビ小説『花子とアン』で、ヒロインの夫役を務め話題となる。2018年NHK大河ドラマ『西郷どん』で主演。フジテレビ4月クールの木曜劇場『レンアイ漫画家』に刈部清一郎役で主演。8月公開予定の映画『孤狼の血LEVEL2』では上林組組長・上林成浩役、10月公開予定の『燃えよ剣』では近藤勇役で出演。世界遺産検定1級の知識を生かし、2020年9月『行った気になる世界遺産』(ワニブックス刊)を上梓。公式Twitter @ryoheiheisuzuki

[MEN’S EX Spring/Summer 2021の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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