ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第44弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.44 / ブルックス ブラザーズのリボンベルト
’90年代初め頃に購入しました。自分にとって初めてリボンベルトを着けたのは中学1年生の頃(1975年)。3歳年上の姉から譲り受けた帯がブラックウォッチのリボンベルトでした。
小学生の頃は’70年代だったので、ベルボトムのジーンズをはいて完全な’70年代ファッションでしたが、中学に入学するとお洒落な先輩達は皆アイビーでした。
自分も影響され、入学して数ヶ月経つと学生服の下にはボタンダウンのシャツを着て、パンツの裾幅を詰めてスリムなパンツに直し、ヒップポケットからタータンチェックのハンカチを1cm覗かせるような、ちょっといきがった田舎の中学1年生でした(笑)。
最初の頃はアイビー世代の姉がすすめるものをとにかく着ていました。マドラスチェックやギンガムチェックのボタンダウン、スリムなホワイトジーンズ、スエットパーカー、キャンバスのデッキシューズ等々、そしてリボンベルトもその一つだったことは言うまでもありません。
高校生になるとプレッピーのブームが来て、ファッション誌でプレッピーの定番アイテムとしてリボンベルトが紹介されると、叔父が営んでいたメンズショップで扱っていたアメリカのトラファルガーのストライプのリボンベルトを手に入れます。
当時のプレッピーはチノパンにリボンベルトが定番だったので、自分もチノパンを穿いたときには、そのストライプのリボンベルトを締めるのが定番スタイルになっていました。
ちなみに、そのトラファルガーのリボンベルトは当時人気だった日本のトラッドブランドAVON HOUSE(エーボンハウス)がトラファルガーに別注したもので、その帯のストライプの色合わせを考えたのが、当時エーボンハウスで企画をされていて、現在はSHIPSのメンズクリエイティブアドバイザーを務められている鈴木晴生さんだったということを数年前に鈴木さんから直接伺って知ることになります。
そんな中学から高校の頃にはまっていたトラディショナルなスタイルからも、大学生になり上京すると都会で流行っていた色々なスタイルに影響され、しばらく遠のくことになります。
そして’80年代中にBEAMSに入社すると、フレンチアイビーの流れはあるものの、トラディショナルな色の濃すぎるリボンベルトはフレンチ的なミックステイストの中にも取り入れられることもなく、その後当時ラルフローレンやJ&Mデビッドソンなどが展開し注目されていた英国製のレザーメッシュベルトがブームになると、リボンベルトはさらに遠いアイテムになってしまいました。
’90年代に入り、英国や米国のトラディショナルなスタイルの流れが来て、’80年代から続くフレンチトラッドの流れや、当時日本ではまだイタリアンブリティッシュと言われたイタリアンクラシックの流れも少しずつ見えてきた中で、それらをまとめたアングロスタイルという流れが出てくると、それまでは古臭いと思われていたトラディショナルなアイテムが再注目されるようになります。
そのタイミングで個人的に約20年振りにリボンベルトがしたくなり、色々探すもののなかなか良いものが見つからず、毎年購入していたマドラスチェックのボタンダウンの新作をチェックしに行ったブルックス ブラザーズの青山本店で偶然見つけたのが、このリボンベルトでした。
帯の色と素材感、レザーの色、バックルの雰囲気、全て自分の求めていたイメージどおりのベルトでしたが、唯一気になったのがイタリア製だったこと。
自分の中ではリボンベルトはアメリカ製か英国製というイメージがあったので、なんとなくイタリア製というのは引っ掛かるポイントでした。結局意外とリーズナブルだった値段にもひかれ、イタリア製ということが気になりつつもあっさり購入してしまいました(笑)。
そして、その後色々なブランドでリボンベルトを別注し何度もBEAMS Fで展開し、2000年代に入るとイタリアンクラシックの流れの中でイタリアらしいエラスティックの帯を使ったリボンベルトも出てきて、色々なテイストのリボンベルトがマーケットで見られるようになりました。
そして、最近またこのようなトラディショナルなテイストのリボンベルトが気になり、クローゼットを探してみて唯一残っていたのが、このブルックス ブラザーズのリボンベルトでした。
さすがにサイズが小さく、今は着けることはできませんが、私が所有しているリボンベルトの中では一番古く、さらに自分のトラディショナルスタイルの遍歴の中でルーツ的なアイテムのひとつでもあるので、これからもアーカイブ資料として大切に保管していこうと思っています。