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苦労は、苦にあらず【後編】  硬骨のアルチザンたち<第十回>

硬骨のアルチザンたち 2013/09/27

男の装いはすべて、彼らの手によって、この世に生み出される。
職人(アルチザン)。それは誇りと夢だけを胸に、手仕事を極める挑戦者たちの名。
そのモノ作りに込められた想いが今、明かされようとしている。


苦労は、苦にあらず TYE SHOEMAKER 大野 毅(東京)


見る者の琴線に、そっと触れるデザインが理想
メッシュを意匠に取り入れたタッセルスリッポンは、よく見るとホールカットのアッパーに切れ込みを入れ、短冊状の別革を編み込んだものであるとわかる。


強度を保つべく、メッシュ部もウェルティング箇所はメッシュにしていない。木型に吊り込んだ際、ここがウェルトのジャスト位置に収まるよう予測するのが、難しいのだとか。

靴のデザインは、顧客の要望を聞きながらその場でイラストに起こす。「ビスポークはお客様の夢であり、想いを叶えるもの。できませんという回答は、あってはならないと思います」と大野氏。


お客様の想いを叶える作り手でありたい

――レディスのビスポークを軸に、というのもあまりないお話ですね。お店にあるメンズのサンプル靴にも、独特の雰囲気があります。

大野 クラシックなメンズシューズも好きなので、レディスを意識しているとかそんなことはないのですが。ただ、ICHOさんの仕事を受けるようになってからというもの、普通のサンプルシューズを作ることに物足りなさを感じるようになりました。無茶なイメージを伝えられることに慣れてしまいまして(笑)。ここに並んでいるのもサンプルであり、お客様の靴ではありません。ビスポークとはお客様の想いを叶えるものだと思いますので、正直に言うと、サンプルは重要視していないんです。


――人が履いてこその靴であると。

大野 はい。綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれませんが、淀みのない木型というのはある程度作っていれば、できるものです。その先はお客様の足や想いにどう応えるかでしか、職人としての成長はないのです。だから「できません、やれません」とは、間違っても言ってはいけないと思っています。このメッシュの靴(写真上)も、ICHOさんとお客様のご要望から生まれたものです。


――素人目にも大変な手間を感じる造形ですね。しかも、よくよく見るとホールカットではありませんか。

大野 はい。メッシュの縦方向のみ、別革を用いています。メッシュを編んでくれる業者が国内になかったもので、自分で編みました。この靴は強度を保持するのが難しいですね。細かいところですが、ウェルトとの縫製部はメッシュにしていません。糸や革が切れてしまう恐れがありますから。木型に吊り込んだらこの辺りに縫製部が来るだろうということを予測して、アッパーに切れ込みを入れる。この塩梅がまた、難しくて。


――普通なら断りますよね(笑)。

大野 でも、こういうのは手間が掛かるだけですからね。手間は大歓迎。ただし、苦労の跡が見えてはいけない。決して押し付けがましくなく、見る方の琴線にそっと触れる、そんなデザインやフォルムが理想ですね。



河合「靴は履き手の健康にも関わってきますからね」
大野「だからこそ作り手の責任が問われるんです」


――――ロングブーツも、ほかでは見られない形です。立体感が素晴らしい。

大野 通常だと、ふくらはぎの部分は個別に木型を作らないのですが、僕はここも採寸して作ります。シワが入らず、かつ脚へ自然に沿うフォルムを目指しているんです。でも、タイトに攻めすぎると、今度は足入れがしにくくなる。そのせめぎ合いですね。靴は、お客様を運ぶ道具。責任を、いつも肌に感じています。



DATA
青山「ICHO」内のオーダーメイドサロン、もしくは大野氏のアトリエにてオーダーが可能。ビスポーク靴31万5000円~(納期約8ヶ月~)

ICHO
東京都港区南青山5-5-25 TプレイスB102
TEL:03-5766-5680
営業時間:12時~20時 月曜定休

アトリエの詳細はhttp://tyeshoemaker.com/
※商品価格は、消費税を加えた総額表示であり、2013年8月現在のもの(消費税5%)です。

案内する人


河合正人(かわい まさと)

1958年京都生まれ。本職はフラワーコーディネーター。「神戸ブランメル倶楽部」運営委員として、アパレル界に多彩な知人を持つ。近著に写真集「FLOWERS」。

神戸ブランメル倶楽部:http://www.kobe-bc.jp/
著書:「FLOWERS(フラワーズ)」


硬骨のアルチザンたち ≪一覧≫

<第一回>ナポリを愛しすぎた男
<第二回>必要なのは"流儀(スタイル)"だ
<第三回>"フィレンツェ"という美学
<第四回>"パンツ職人"(パンタロナイオ)、立つ
<第五回>究極の美を求めて
<第六回>分解(バラ)しても美しいスーツを
<第七回>"美しい靴"とは何か
<第八回>革を"読む"こと
<第九回>アバウトと、精緻と
<第十回>苦労は、苦にあらず
<第十一回>服は、理屈じゃない
<第十二回>ひたむきにシャツを愛す
<第十三回>修理の"先"を求めて
<第十四回>常に"自然体"でありたい
<最終回>縫わずには、いられない


M.E.デジタル版

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